地方創生×商工中金
パートナー
対談
地域の未来を描く、大規模テーマパーク「ジャングリア沖縄」を運営する株式会社ジャパンエンターテイメント。コロナ禍や国際情勢の影響で資金調達が難航するなか、挑み続ける同社を商工中金は二人三脚でどうサポートしたのか。両者の出会いからプロジェクト実現に向けての奮闘、そしてこれからの展望。互いに本音をぶつけ合いながら築いてきた信頼関係の歩みを、株式会社ジャパンエンターテイメント・加藤代表と商工中金・桑本が振り返る。

沖縄に大規模テーマパークを
コロナ禍の只中でも、
積極的に動いた商工中金との出会い
お二人の出会いについて教えてください。
桑本:最初の出会いは2020年7月ですね。ある方を通じてジャパンエンターテイメントさんを知り、その後加藤さんをご紹介いただき、東京でお目に掛かりました。加藤さんは、本当に自信と情熱にあふれていて、黒々とした瞳から強烈な熱意が伝わってきたのを覚えています。「この人は情熱を持った方だ」と感じましたね。我々のような金融機関からすると、新しい空間を切り開いていく挑戦者と出会えたことは非常に大きな意味がありました。
加藤:当時、私たちは段階的に資金調達を進めているところでした。出資をいただいた後、融資での資金調達検討ステージに入った段階にあり、その一環として商工中金さんを訪問して趣旨を説明しました。桑本さんは、沖縄のことにも非常に詳しく、話せば話すほど知識が深くて、第一印象から、信頼できる方だと感じていました。
桑本:私自身も沖縄での経験があり、沖縄で事業をやるのは本当に難しいと感じていました。ただ、ジャパンエンターテイメントの皆さんが地域と一緒に取り組んでいる姿に強く共感しました。当初は私たちが大きく関わることはないだろうと思っていましたが、次第に「もっと、ど真ん中で支えたい」と考えるようになりました。ジャパンエンターテイメントさんの期待が大きいのを感じて、我々としても一緒にできることを増やしていきたいと思ったのです。
加藤:当時、融資を得るためにさまざまな金融機関と交渉していましたが、その中でも特に熱心に話を聞いてくださったのが商工中金さんで、本当にありがたかったです。コロナ禍の真っ只中だったため、慎重な姿勢のところも多く、なかなか前向きに話が進められない状況が続いていましたから。
実際の融資に至るまでの流れやご苦労について教えてください。
加藤:大規模な事業であるのに対して我々はスタートアップでまだ実績がなく、出資と融資を同時並行で集める必要があった点に苦労しました。
桑本:期待される金額が非常に大きかったので、我々はまず「仲間づくり」を徹底しました。地域金融機関を巻き込んでいくことが不可欠だと考え、琉球銀行さんをはじめとする金融機関とともにシンジケートローン*を組成する方向に動きました。加えて、プロジェクトの意義やテーマパーク事業としての効果を分かりやすく言語化し、関係者に向けて伝えやすい形を整えることにも力を注ぎました。同時に、審査や調査を徹底的に行いました。外部の専門家の意見も取り入れながら、事業の持続可能性を1年半ほどかけて検証しました。やりたいことを形にするのは本当に難しい作業でしたが、それを一緒に考え、制度的にも支援していくことが私たちの役割でした。
*企業の資金調達ニーズに対し、複数の金融機関が協調してシンジケート団を組成し、同一条件で融資を行う資金調達手法のこと
加藤:今回のプロジェクトでは、最終的に13行という多数の地域金融機関さんが関わる大きな所帯の中で、商工中金さんがど真ん中に立っていただいて、周りを巻き込みながら皆さんをまとめてくださったその手腕には、本当に頼りがいがあるなと感じていました。


沖縄ならではの自然の恵みと独自の文化を背景に、最新鋭のアトラクションやエンターテイメント、地元食材を活かしたフードなど、さまざまな体験を楽しむことができる。写真はアトラクション「SKY PHOENIX(スカイ フェニックス)」。
最大の危機は、ウクライナ紛争
による国際情勢の変化
二人三脚で奮闘して突破口を開く
一連の取り組みの中で一番大変だったことは何ですか?
加藤:一番の危機は、ロシアによるウクライナ紛争の勃発でした。商工中金さんにお願いして本格的に他の金融機関へ声をかけ始めた矢先に、あの軍事侵攻が始まってしまったのです。当初は、このプロジェクトに大きな影響が出るとは想像しきれなかったのですが、結果的には大きく響きましたね。それまで順調だったのが、侵攻の影響で、金融機関が一斉にトーンダウンしてしまったのです。2022年の5月ごろでしたか、あの時が一連の取り組みを通じた中で最も危機的な状況でした。
桑本:実際、商工中金としても2022年2月ごろから他の金融機関への声かけを始めていて、総事業費700億円に対し、融資で「400億円規模で十分に集まるのではないか」と見込んでいました。ところが、5月の連休明けの回答期限が迫ると、結果は「不参加です」とか「50億と言っていたのが10億に減額です」というように、次々に厳しい返答が返ってきました。見込みが一気に崩れ去り、私自身、非常に大きな“読み違い”があったことを痛感しました。
それでも諦めるわけにはいきません。そこから新しい金融機関を一つひとつ開拓しました。加藤さんと一緒に何度も何度もプレゼンを行い、資料を作り直し、懸命に突破口を探しました。あの時期は本当に胃が痛くなるような毎日でしたが、二人三脚で進めたからこそ、なんとか前に進むことができたと思います。
加藤:そこからは本当に二人三脚で、新しい金融機関に説明する場を商工中金さんが整えてくださり、何行も何行もプレゼンして回るということを懸命に進めていけたことが成功のポイントだったと思います。私たちは最後に説明するだけでよい状態にまで持っていってくれていたので、本当に心強かったです。
桑本:金融機関ごとに質問や関心が違うのがポイントで、そこを事前に想定してひとつずつ潰し込みをしていく、加藤さんにはそこにしっかりと答えてもらう形で準備していただけたのが良かったのだと思います。最も厳しい時期でしたが、その中で得られた連携の力は非常に大きかったですね。



沖縄から、日本の“未来”をつくる。
ジャパンエンターテイメントの挑戦
今後のビジョンやお二人が目指す方向性について教えてください。
加藤:ジャングリア沖縄は、2025年7月25日に開業しましたが、まずはここでの集客をしっかりとしていきたいです。120ヘクタールの土地の中で、まだ半分の60ヘクタールしか使っていません。今後の拡張も踏まえて、足元を固めながら進めていきたいと考えています。
私たちはジャングリア沖縄を単なるテーマパークとしてではなく、「沖縄から日本の“未来”をつくる」場として位置付けています。観光客に楽しんでもらうだけでなく、地域の人々が誇りを持ち、そこで働く人がやりがいを持てる空間にすること。それによって沖縄の価値をさらに高めたいと考えています。今後は、テーマパークとしての成功にとどまらず、沖縄全体の発展につながるような新しい取り組みを生み出していきたいです。観光と地域産業をつなげ、世界に誇れるプロジェクトとして発展させていきたいと思っています。
桑本:商工中金としては、資金提供だけでなく、我々の持つ知恵や取引先である7万社のお客さまやその周りにいる300万社の中小企業をパートナーとしてご紹介しながら、日本全体でこのパークを作りあげていくことを後押ししたいと考えています。私たちの期待は、沖縄から日本を変える、という大目標を実現してほしいということですね。コロナ禍以前から、日本の力強さは失われ、世界での地位も落ちてきた中で、ジャパンエンターテイメントさんには、沖縄だけに留まらず、日本の持つ観光インフラ、観光産業のポテンシャルの高さ、何よりもホスピタリティの高い人材を活かした事業を、日本そして世界で展開してほしいなと思っています。日本のエンターテインメントを世界に羽ばたかせてください。
私自身、今回の取り組みで学んだのは「信頼関係を積み重ねることの大切さ」です。これからもジャパンエンターテイメントさんとともに歩み続け、金融の枠を超えて沖縄の未来を共につくっていきたいと考えています。
最後に、お互いにとって相手の存在とはどういうものでしょうか。
桑本:家族のような存在ですね。近い距離感で本音をぶつけ合いながら、時には意見を戦わせつつ、互いに成長していく関係に発展していけたかなと思っています。
加藤:私は「目的を共にする仲間」だと考えています。事業には良い時も悪い時もありますが、最後まで一緒に進めるかどうかは、目的にお互いが合意できているかどうかが重要です。その上で、状況に応じて前向きな発想ができるという意味で、商工中金さんは素晴らしい「仲間」だと感じています。
120ヘクタールにおよぶ広大な敷地は、かつてゴルフ場だったすり鉢状の地形をそのまま活かしたことで、まるで本物のジャングルの中にいるような没入体験が可能に。
Profile

加藤 健史
株式会社ジャパンエンターテイメント
代表取締役
テーマパークのオペレーション・ファイナンス・マーケティングの3領域に精通するスペシャリスト。新卒で入社したユニバーサル・スタジオ・ジャパンでは、開業前から新規アトラクションの立ち上げや高効率なオペレーション開発などに従事。有名マーケター・森岡毅氏率いる「株式会社刀」のメンバーでもある。2018年8月よりジャパンエンターテイメント代表取締役。
JUNGLIA OKINAWA
ジャングリア沖縄
沖縄本島北部に広がる「やんばるの森」の真っただ中に完成した、「大自然没入型」のテーマパーク。2025年7月の開業直後から多くの話題を集める。体験型のアトラクションに加え、地域の食材や産物を活かした食体験やショッピング体験も魅力のひとつ。


桑本 繁
株式会社商工組合中央金庫
ファイナンシャル・デザイン部長
(現広島支店長兼広島西部支店長)
ソリューション事業部在籍時に 「ジャングリア沖縄」のプロジェクトファイナンスのシンジケートローン組成を指揮。その後、ファイナンシャル・デザイン室を立ち上げ、室長に就任。地方創生、地域活性化軸のプロジェクトファイナンスを数多く組成。ファイナンシャル・デザイン部長を経て2025年10月広島支店兼広島西部支店長に就任。広島の地からも日本の素晴らしさを世界に発信したいと意気込む。
JUNGLIA OKINAWA
ジャングリア沖縄
沖縄本島北部に広がる「やんばるの森」の真っただ中に完成した、「大自然没入型」のテーマパーク。2025年7月の開業直後から多くの話題を集める。体験型のアトラクションに加え、地域の食材や産物を活かした食体験やショッピング体験も魅力のひとつ。
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