スタートアップ×商工中金
パートナー
対談
すべてのマンガを、すべての言語へ――。グローバル規模のミッションに挑むスタートアップ企業、株式会社オレンジ。“日本代表”として世界のコンテンツ市場にチャレンジする同社に、商工中金はどう寄り添っているのか。株式会社オレンジ・宇垣代表と、商工中金・髙橋が語り合う。

「お金のことは気にせず事業に集中してください」
その一言から始まった両社のパートナーシップ
お二人の出会いについて振り返ってください。
髙橋:オレンジさんが2024年5月に大きな資金調達をされたのをメディアで見かけて、この事業はぜひ商工中金としても後押ししなければ、ということで押しかけてしまいました。最初に問い合わせた際には「特に今、資金需要はありません」と言われたのですが、「どうかお願いします」と半ばむりやりお願いをして。宇垣さんはアメリカを拠点にされているので、直接お目に掛かったのは半年後くらいでした。それが最初ですね。
宇垣:私が帰国した今年の1月でした。そのタイミングでお会いすると、一言目に「お金のことは気にせず、事業に集中してください」と言っていただいたのがとても印象的でした。スタートアップはエクイティファイナンス*1が基本です。なのに、商工中金さんがデットファイナンス*2をやってくれると。「なんでそんなにいい話が?」と驚きました。髙橋さんは、最初から当社のミッションやビジョンに共感してくださっていて、完全に「マンガの可能性」を信じてくれていたんです。同じ方向を向いて、一緒にやっていけるなと思ったことを覚えています。
*1 企業が株式などの資本を活用して資金を調達する方法
*2 金融機関からの借入や社債発行など、返済義務を伴う有利子負債によって資金を調達する方法
髙橋:初対面で、「日本人として、商工中金として、御社にベットしない選択肢はない」とお伝えしましたね。日本の産業を支えてきた自動車や半導体、さらにはパソコンやスマートフォンなどにしても、今や海外の企業に押され気味。日本がグローバルで戦える産業といえば、コンテンツ、特にマンガではないかということは、商工中金の内部でも話をしていました。オレンジさんはようやく現れた「世界で戦える本物のプレイヤー」だと思ったわけです。そのくらい本気でしたし、気づいたらつい熱くなって「銀行員なんかと会っている場合じゃない、事業に集中してください」と宇垣さんにお話ししていました。お金のことは全部自分がやる。オール商工中金、オールジャパンで支援する覚悟でした。
宇垣:マネタイズはまだこれからというアーリースタートアップ*3の立場からいうと、こんなにありがたいことはないですよね。「事業に集中してほしい」「心配しなくていい」という言葉をいただけること自体が、これ以上ないことで。もう一蓮托生、一緒に進んでくれるというのはとても嬉しかったですね。
*3 事業を立ち上げて間もない成長初期の企業
株式会社オレンジが提供する、マンガとの新たな出会いと没入体験を届けるデジタルプラットフォーム「emaqi」。北米圏のマンガファンがストレスなく作品を検索・購入・閲覧できる環境を実現する。



「他が取れないリスクを取る」商工中金
世界で戦う企業に「オールジャパン」でのファイナンスを
当時のオレンジさんの資金需要や、その後の調達スキームについて教えてください。
宇垣:2024年5月にエクイティファイナンスでの資金調達を実施した直後だったので、急ぎの資金需要はありませんでした。ただ、最終的には未翻訳のマンガを多言語でリリースし、出版社から翻訳・出版のライセンスをきちんと確保し、かつ作家さんのためにも、作品の品質はキープしなければならない。求められる技術も高く、やることもたくさんありました。今後大きな資金が必要になるのは間違いなく、どこかのタイミングで再び調達しなくてはと思っていたので、まさかのお話でした。なぜ、あのとき大規模なデットファイナンスを、と提案してくれたのですか?
髙橋:商工中金のアイデンティティのひとつに「他が取れないリスクを取る」ことがあります。もちろん闇雲にリスクを取るわけではありませんが、世の中にインパクトを与えることができるのが商工中金だと思っています。オレンジさんが世界を変えようというのに、自分たちがリスクを取らないで誰が取るんだと考えていました。なので、実現そのものには相当の自信をもっていましたし、宇垣さんと話したときにはもう、不安は何もなかったですね。思いが合致したので、あとは実務の話だけでした。
融資実行の舞台裏を教えてください。
髙橋:形態はシンプルな「融資」ですが、こだわったのは融資の形より「オールジャパン体制」であること。他の銀行のキープレイヤーを集め、誰がどう見ても「これがオールジャパンのファイナンスだ」とわかるようにしました。オレンジさんには、どの銀行に声を掛けるかとか、声の掛け方までアドバイスしました。作戦会議ばかりやっていましたね。
宇垣:アーリーステージ*4でこの規模感のデットファイナンスは、まずないですよね。髙橋さんが道筋をきれいに引いてくださって、手順も何から何まで整えていただいたので、とてもスムーズでした。「こんなにうまくいくんだ」と思っていたほどです。間違いなく、商工中金さんがリードしてくれたからこその結果ですね。
*4 創業直後で、サービスやプロダクトを市場に投入し、成長の基盤を築いている段階
髙橋:ありがとうございます。私たちも組織である以上、融資実行には組織決定が必要で、当時はまだプロダクトもローンチしていない状況。判断のキモは、マーケットがどれだけ存在して広がっていくか、オレンジさんが国内外の競争相手と戦えるか、でした。資料を集め、ネットの情報にも大量にあたりました。最後の一押しになったのは、宇垣さんを応援する出版界の方々の存在やオレンジさんの技術力の高さ、なにより「チーム宇垣」のすごさです。優秀かつ尖ったメンバーが集まっている。「あのチームを見たらやるしかないでしょ」と投資家さんたちも仰っていましたね。
日本発のマンガコンテンツをグローバルに届ける株式会社オレンジのビジネスモデル。


“同じ船”に乗り込んだ両社
オレンジの名が世界にとどろくその日まで
商工中金と、他の金融機関との違いについてどうお感じですか?
宇垣:「お金のことは気にしないで」「事業に集中してほしい」と言ってくださる金融機関は他にありませんでした。本当に“ありがたい”を超えた存在です。今回の資金調達の座組をリードしていただいたことは間違いありませんし、僕らだけでは絶対に実現できませんでした。
今後の展望についてはいかがですか?
宇垣:まずは事業としてちゃんと実績を出していく。翻訳作品をどんどんリリースしていくことですね。長期的には世界中で読んでもらえるように多言語化し、その国の「母国語」で届けます。もうひとつ、日本のコンテンツ市場にはどんどん外資が参入してきています。プラットフォームも外資ばかり。そこでぜひマンガは、国産のプラットフォームで世界に拡げていけるようにしたいと考えています。ただ、世界中の人たちにマンガを読んでもらえるようにするには、5年じゃ済まない、10年、20年と長い時間かかりますが、頑張っていけば必ず達成できると信じています。現在、日本人の3割が日常的にマンガを読んでいると言われています。単純計算ですが、世界に拡げれば80億人の3割で約20億人に読んでもらえることになります。未翻訳の有名作品も多く、マンガのポテンシャルは今言われているより相当大きいと考えています。私たちのミッションはシンプルで「世界中の人にマンガを届ける」こと。そのために努力し続けます。
お互いの関係についてどうお感じですか?
宇垣:まず、商工中金さんには期待以上のことをすでにやっていただいているので、これ以上望むことはないくらいです。関係というと、髙橋さん、商工中金さんとは同じ船に乗っている仲間ですね。一蓮托生です。
髙橋:宇垣さんが追っているのは、命を懸けるほど価値のある夢だと思っています。もちろん我々としても、どこまでもずっと伴走し続ける気持ちです。個人的には、ほぼ身内、家族、友達みたいな関係だと思っています。銀行は機能として「お金を貸してくれるところ」ではあるのですが、それを超えて、安心させられる存在になりたいですね。
宇垣:目標が世界中の数十億人の方にマンガを読んでもらうことなので、長い戦いには絶対になると思っています。出版社さん、金融機関さん、投資家さんたちに協力していただかないと何もできません。商工中金さんも仲間として船に乗ってもらっているので、末永く一緒にやっていきたいと思っています。
髙橋:まだまだこれは始まりにすぎません。宇垣さん、そしてオレンジさんの夢が実現するその日まで、一生サポートし続けます。そしていつかは、私の手の届かない存在にまで成長してほしいと願っています。商工中金としても、世界を変えようとする企業へ積極的にサポートをしていきます。
Profile

宇垣 承宏
株式会社オレンジ
代表取締役/CEO
幼少期から1万冊を超えるマンガや最新のゲームハードに囲まれて過ごし、今も1万冊を超えるマンガをアプリで購入する「マンガ好き」。前職ではモバイルゲームの開発を手がけ、大ヒットゲームの事業責任者を歴任。2021年にオレンジを設立。2024年アメリカ現地法人の設立とともに移住。
株式会社オレンジ
「すべてのマンガを、すべての言語へ」をミッションに掲げ、マンガに特化したAIツールを開発。日本の良質なマンガ作品を多言語化して世界に発信する事業を展開。出版社から翻訳・出版権を預かり、翻訳&配信も行う。将来は日本初のコンテンツ配信プラットフォームとして、Netflix、Spotifyと戦えるレベルを目指す、グローバルで戦うベンチャー企業。


髙橋 幸一
株式会社商工組合中央金庫
スタートアップ営業部長
メガバンクにて、大企業営業や企業再生、投資銀行業務等を手掛けた後、2018年、商工中金に入社。ソリューション事業部にてスタートアップ推進やプロジェクトファイナンス、不動産ファイナンス、LBOなどの新事業立ち上げを手掛ける。その後、東京支店営業第三部長を経て、現在はスタートアップ営業部長として、スタートアップへのデットファイナンスの提供、ファイナンススキームの構築等を行っている。
株式会社オレンジ
「すべてのマンガを、すべての言語へ」をミッションに掲げ、マンガに特化したAIツールを開発。日本の良質なマンガ作品を多言語化して世界に発信する事業を展開。出版社から翻訳・出版権を預かり、翻訳&配信も行う。将来は日本初のコンテンツ配信プラットフォームとして、Netflix、Spotifyと戦えるレベルを目指す、グローバルで戦うベンチャー企業。
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