沢井 悠 氏
コロナ禍で健康への意識が高まる中、「腸活」という言葉を目にする機会が増えてきた。腸内にすみついている何兆もの微生物の集団である腸内細菌叢(そう)は、身体機能や免疫機能の活性化など人体の健康に大きな影響を与えている。2014年創業のスタートアップ、サイキンソーは、まさにこの腸に着目している企業だ。
同社代表取締役の沢井悠氏は「10年ほど前から腸と全身の健康の関わりが注目されるようになり、『これからは腸の時代が到来するのではないか』と可能性を感じた」と創業の経緯を語る。腸内細菌叢はある程度の共通パターンはあるものの、一人ひとり菌の種類や割合が異なる。サイキンソーが開発・提供する「マイキンソー(Mykinso)」は、この腸内細菌叢をDNA解析により評価する個人向けの腸内フローラ検査サービスだ。腸の状態をチェックすることで、生活習慣の改善や病気の未然の防止(未病)に貢献できる。
沢井 悠 氏
ヘルステック企業においては、データの蓄積量がサービスの質を左右する。サイキンソーは1000件を超える医療機関への検査導入や乳幼児向け検査の提供を進めながら、これまでに累計7万件以上の腸内細菌叢を検査・解析しており、その実績は国内最大規模。また理化学研究所や大阪大学微生物病研究所とも連携し、腸内細菌叢の分析法の共同研究を進めるなどして精度を高めている。
SDGsの17の目標のうち、3番目には「すべての人に健康と福祉を」という目標が掲げられている。高精度な腸内細菌の調査を一般の人にも手が届くレベルで提供する「マイキンソー」は、多くの人の健康に貢献し、超高齢化少子化社会である日本の医療費負担の増加という課題の解決にもつながる。
【写真4】検査結果はフィードバックされる。自分の腸の状態を知ることで、腸活に役立てることができる。
【写真5】検体を回収する検査キット、マイキンソー。医療機関で申し込んで行うほか、自宅で手軽にできるキットや子供用のマイキンソー キッズもある。
「血圧や血糖値をチェックするように、腸の状態を自分の健康パラメータの一つとしてモニタリングする社会を目指したい。そうすることで、将来的には健康や医療行動の精度の上昇に貢献できる」と沢井氏は展望を語る。腸のセルフケアが一般的になる社会を目指すサイキンソーはさらなる事業拡大や研究開発体制の強化を目指し、新たな成長資金を必要としていた。その時、沢井氏が出合ったのが商工中金だった。
サイキンソーのようなスタートアップは、株式を発行してベンチャーキャピタルにリスクマネーを引き受けてもらい成長資金とする方法が一般的だ。だが、これには株式が希薄化してスピーディーな経営判断が保持できなくなるデメリットがある。沢井氏は「金融機関からのデット(借り入れ)であれば株式の持ち分比率を落とさずとも資金提供が受けられるので、経営が安定する。可能性を感じ、ぜひ話を聞いてみたいと感じた」と振り返る。また、金融機関は一般的にリスクを避ける傾向があり従来は調達できる資金額があまり多くなかったが、商工中金であれば大規模な融資が受けられる可能性があることも魅力だった。
大阪支店 営業第四部 営業第四課 課長
毛利 一裕 氏
商工中金に相談があったのは2021年の7月。担当したのは同社の大阪支店営業部の毛利一裕氏だ。毛利氏は「対話を繰り返す中で、沢井代表を筆頭にして会社全体から腸内細菌で社会課題を解決しようという気持ちの強さを感じた。社会的な意義の大きい事業なので、なんとかサポートしたいと思った」と印象を語る。
大阪支店 営業第四部 営業第四課 課長
毛利 一裕 氏
ソリューション事業部 スタートアップ支援室 調査役
吉田 充 氏