商工中金は中期経営計画の強化分野として「S・E・T」を掲げた。
それぞれS=スタートアップ支援、E=サステナブル経営支援、T=事業再生支援となっている。
新型コロナウイルス禍を機に社会は大きな変化の時を迎えた。新たな技術や価値観の創出を求められる現代において産業の基盤であり、
未来の礎である中小企業をサポートする商工中金の取り組みを紹介する。

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社会課題に新技術で挑戦するスタートアップを商工中金がサポート

独自技術で社会問題の解決を目指し、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献するスタートアップ企業。豊かな未来をつくるには不可欠な存在だが、先進的な技術を扱い、収益化には時間を要するゆえに資金調達は常に経営課題の一つとなっている。

腸内細菌の検査解析サービスを展開するサイキンソーはこの春、中小企業専門の金融機関である商工中金と総額3億円という大規模な融資契約を結んだ。商工中金はスタートアップ企業の成長性を多面的に評価し、新たな挑戦をサポートする融資スキームを提案した。

健康な社会を腸から

「これからは腸の時代が到来する」

沢井 悠 氏
サイキンソー 代表取締役社長
沢井 悠

コロナ禍で健康への意識が高まる中、「腸活」という言葉を目にする機会が増えてきた。腸内にすみついている何兆もの微生物の集団である腸内細菌叢(そう)は、身体機能や免疫機能の活性化など人体の健康に大きな影響を与えている。2014年創業のスタートアップ、サイキンソーは、まさにこの腸に着目している企業だ。

同社代表取締役の沢井悠氏は「10年ほど前から腸と全身の健康の関わりが注目されるようになり、『これからは腸の時代が到来するのではないか』と可能性を感じた」と創業の経緯を語る。腸内細菌叢はある程度の共通パターンはあるものの、一人ひとり菌の種類や割合が異なる。サイキンソーが開発・提供する「マイキンソー(Mykinso)」は、この腸内細菌叢をDNA解析により評価する個人向けの腸内フローラ検査サービスだ。腸の状態をチェックすることで、生活習慣の改善や病気の未然の防止(未病)に貢献できる。

沢井 悠 氏
サイキンソー 代表取締役社長
沢井 悠

ヘルステック企業においては、データの蓄積量がサービスの質を左右する。サイキンソーは1000件を超える医療機関への検査導入や乳幼児向け検査の提供を進めながら、これまでに累計7万件以上の腸内細菌叢を検査・解析しており、その実績は国内最大規模。また理化学研究所や大阪大学微生物病研究所とも連携し、腸内細菌叢の分析法の共同研究を進めるなどして精度を高めている。

SDGsの17の目標のうち、3番目には「すべての人に健康と福祉を」という目標が掲げられている。高精度な腸内細菌の調査を一般の人にも手が届くレベルで提供する「マイキンソー」は、多くの人の健康に貢献し、超高齢化少子化社会である日本の医療費負担の増加という課題の解決にもつながる。

写真1
【写真1〜3】検体をDNAレベルで解析する機器。新木場ラボの開設時に新たな機器を導入したことにより、一度に扱える検体数が倍になり、検査効率が大幅にアップした。
【写真4】検査結果はフィードバックされる。自分の腸の状態を知ることで、腸活に役立てることができる。
【写真5】検体を回収する検査キット、マイキンソー。医療機関で申し込んで行うほか、自宅で手軽にできるキットや子供用のマイキンソー キッズもある。
【写真1〜3】検体をDNAレベルで解析する機器。新木場ラボの開設時に新たな機器を導入したことにより、一度に扱える検体数が倍になり、検査効率が大幅にアップした。
写真2
【写真4】検査結果はフィードバックされる。自分の腸の状態を知ることで、腸活に役立てることができる。
写真3
【写真5】検体を回収する検査キット、マイキンソー。医療機関で申し込んで行うほか、自宅で手軽にできるキットや子供用のマイキンソー キッズもある。

社会的意義のある事業をサポートする

「血圧や血糖値をチェックするように、腸の状態を自分の健康パラメータの一つとしてモニタリングする社会を目指したい。そうすることで、将来的には健康や医療行動の精度の上昇に貢献できる」と沢井氏は展望を語る。腸のセルフケアが一般的になる社会を目指すサイキンソーはさらなる事業拡大や研究開発体制の強化を目指し、新たな成長資金を必要としていた。その時、沢井氏が出合ったのが商工中金だった。

サイキンソーのようなスタートアップは、株式を発行してベンチャーキャピタルにリスクマネーを引き受けてもらい成長資金とする方法が一般的だ。だが、これには株式が希薄化してスピーディーな経営判断が保持できなくなるデメリットがある。沢井氏は「金融機関からのデット(借り入れ)であれば株式の持ち分比率を落とさずとも資金提供が受けられるので、経営が安定する。可能性を感じ、ぜひ話を聞いてみたいと感じた」と振り返る。また、金融機関は一般的にリスクを避ける傾向があり従来は調達できる資金額があまり多くなかったが、商工中金であれば大規模な融資が受けられる可能性があることも魅力だった。

毛利 一裕 氏
商工組合中央金庫
大阪支店 営業第四部 営業第四課 課長
毛利 一裕

商工中金に相談があったのは2021年の7月。担当したのは同社の大阪支店営業部の毛利一裕氏だ。毛利氏は「対話を繰り返す中で、沢井代表を筆頭にして会社全体から腸内細菌で社会課題を解決しようという気持ちの強さを感じた。社会的な意義の大きい事業なので、なんとかサポートしたいと思った」と印象を語る。

毛利 一裕 氏
商工組合中央金庫
大阪支店 営業第四部 営業第四課 課長
毛利 一裕
吉田 充 氏
商工組合中央金庫
ソリューション事業部 スタートアップ支援室 調査役
吉田 充

過去の実績だけでなく、成長性を評価

課題を分析し、オーダーメードのスキームを構築

サイキンソーへの融資にあたり、具体的なスキーム設計を行ったのは商工中金ソリューション事業部スタートアップ支援室の吉田充氏だ。吉田氏はサイキンソーからの相談を受け、「事業面では技術が確立し拡大に向けて加速する成長フェーズにある一方、成長を支える資金調達はエクイティ(株主資本)中心であったことで調達方法に課題・改善点があった」と課題を的確に分析。お客さまの成長ステージに応じた必要資金にしっかりと対応できるようステップアップ型コミットメントラインという融資スキームを提案した。

吉田 充 氏
商工組合中央金庫
ソリューション事業部
スタートアップ支援室 調査役
吉田 充

この融資スキームは、①事業拡大に伴う正常運転資金に見合う流動的な融資枠と、②事業成長に伴い借入可能額が増加するステップアップ型という2つの性質を合わせもつ。3億円を融資する際に、まずは半分の1億5000万円を融資し、その後KPIを達成するともう半分の1億5000万円を融資する。サイキンソーの課題に合わせたオーダーメード型のスキームで、事業成長に応じた大規模な必要資金の機動的な調達を可能にした。

一般的にデットファイナンスでは実績が評価の基準となるが、成長性を評価するというエクイティファイナンスとデットファイナンスのメリットを掛け合わせた柔軟なスキームを構築できたのは、企業の未来を支えていくという確固たる使命を持つ商工中金ならではと言える。

ステップアップ型コミットメントライン
資金調達の一例
ステップアップ型コミットメントライン 資金調達の一例

融資契約は2022年4月26日に締結した。これにより6月には腸内フローラをはじめとする常在菌のDNA解析拠点「サイキンソー新木場ラボ」を開設。8月にはユーザーの声をもとに開発した新たな腸活サポートサービス「マイキンソー パーソナル(Mykinso Personal)」の提供を開始した。「優先課題だった新拠点の立ち上げとプロダクト開発を終え、事業をさらに加速させていくことができた」と沢井氏。商工中金のサポートを「過去の事業実績だけでなく成長性を評価してくれる。その点が他の金融機関と違っていた」と振り返る。

日本のスタートアップ企業をサポート

商工中金がサイキンソーへの融資にいたった理由を、毛利氏は「急成長するヘルスケア市場のリーディングカンパニーであり、腸の健康を通じて社会保障費の増加という課題を解決する存在になりうる。事業の優位性が複数あり、社会的な重要性も高い事業だと判断した」と説明する。

商工中金は2022年、新たなパーパス「企業の未来を支えていく。日本を変化に強くする。」を掲げた。この新パーパスこそ、商工中金がスタートアップ企業のサポートに力を入れる理由に直結していると、毛利氏は強調する。

「スタートアップ企業は社会的課題を解決する力強い存在だ。国のこれからを支えるためには、新たなビジネスモデルを生み出す企業をサポートし続けることに意義がある」(毛利氏)

写真4
【写真1】打ち合わせを行う吉田氏と毛利氏。
【写真2】執務中の毛利氏。融資案件は複数の部署で連携したチームで取り組む。
【写真3】商工中金ソリューション事業部。若い社員も多く活気がある。商工中金は都道府県ごとに店舗があり、地域事情に即した相談ができるのが強みだ。

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