商工中金は中期経営計画の強化分野として「S・E・T」を掲げた。
それぞれS=スタートアップ支援、E=サステナブル経営支援、T=事業再生支援となっている。
新型コロナウイルス禍を機に社会は大きな変化の時を迎えた。新たな技術や価値観の創出を求められる現代において産業の基盤であり、
未来の礎である中小企業をサポートする商工中金の取り組みを紹介する。

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中小企業とともに歩み課題を解決 商工中金が目指す企業の未来の支え方

中小企業の事業環境が急速に変わりつつあり、人手不足や事業承継への対応、DX(デジタルトランスフォーメーション)、サステナブル経営の推進が大きなテーマになっている。

こうした課題解決のため中小企業とともに歩んでいるのが商工中金。彼らは現状をどう考え、企業をどう支えているのか。商工中金スタートアップ支援室の島當航氏、サステナビリティ推進室の新倉奈々氏、コンサルティング室の水嶋浩之氏の若手担当者3人に話を聞いた。

3つの分野に注力 経済性だけではない企業価値の向上を

――商工中金はS(スタートアップ支援)、E(サステナブル経営支援)、T(事業再生支援)の3分野に注力しています。各分野を担当している皆様から、中小企業の現状とそれに対する商工中金の姿勢について教えてください。

島當 航 氏
商工組合中央金庫 ソリューション事業部
スタートアップ支援室
島當 航

島當 政府が「スタートアップ育成5カ年計画」を打ち出すなど、スタートアップ支援分野は注目を集めています。日本企業の将来を支えるスタートアップの育成は当然大切ですが、一方で世界的な環境変化もあって足元では株式を中心とした資金調達が難しくなっているのも事実です。その分、借入による資金調達ニーズが高まっており、金融機関の役割も大きくなっています。
商工中金は4年ほど前からスタートアップ支援を強化し、今ではお取り引きいただいた企業が数百社まで広がりました。これまでの実績で培った金融面でのノウハウの提供や、全国の支店を通じて中小企業とスタートアップをつなぐビジネスマッチングなど、様々な形でサポートしています。

島當 航 氏
商工組合中央金庫 ソリューション事業部
スタートアップ支援室
島當 航
新倉 奈々 氏
商工組合中央金庫 経営企画部
サステナビリティ推進室
新倉 奈々

新倉 人類の活動が気候変動に及ぼす影響が目に見えて増えています。2022年のCOP27でも地球温暖化に対する世界の決意は揺るぎなく、世界中で進むであろう脱炭素の取り組みは商工中金のお客さまにも影響するでしょう。企業のあり方としては環境だけでなく人権や従業員の幸せといった課題も問われるようになっています。
商工中金は「SPEEDの視点」、つまりSustainability、Productivity、Empathy、Ecology、Digitalという5つの視点で、中小企業のサステナブル経営をサポートしています。商工中金自身が中小企業の皆さまとともに成長していくためにも、経済的だけではない価値を向上させるお手伝いをしていきます。

新倉 奈々 氏
商工組合中央金庫 経営企画部
サステナビリティ推進室
新倉 奈々
水嶋 浩之 氏
商工組合中央金庫 経営サポート部
コンサルティング室
水嶋 浩之

水嶋 中小企業において事業再生は大きなテーマの一つです。特に足元ではコロナ禍の影響もあって過剰な債務を抱える企業が増えてきました。加えて、円安など様々な環境変化もあって、なかなか損益が回復しない悩みを抱える企業もいます。安定的に事業を継続するうえで必要なキャッシュフローを十分に生み出すことができていない企業に対し、金融機関として何ができるかが今の課題です。
そのために必要なのは専門性向上です。もともと商工中金は先駆的な金融手法に取り組むなど、事業再生分野では古くから実績がありますが、コロナ禍や外部環境の変化もあって改めてニーズが高まっています。事業性をきちんと分析し、たゆまぬ経営努力を続けられているお客さまに伴走することで、商工中金独自のサポートに取り組みます。

水嶋 浩之 氏
商工組合中央金庫 経営サポート部
コンサルティング室
水嶋 浩之
3つの差別化分野

2022~24年度を対象にした中期経営計画で掲げた主要戦略の1つで、3つの差別化分野「S・E・T」を挙げて取り組みを強化している。Sの分野ではスタートアップ特有の課題を踏まえた一気通貫のサポート、Eでは「SPEEDの視点」を活用した事業性評価やソリューションの提供、そしてTでは専門性向上と対応力の底上げを通じた「事業再生のトップブランド」構築を目指している。創業期や成熟期など企業のライフステージごとの経営課題に着目して、商工中金として事業性評価能力を向上するとともに、金融支援と本業支援の両面で企業をサポートしていく。

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本部と営業店で連携金融支援と本業支援の両輪で展開

――具体的にS・E・Tの各分野でどのような取り組みをしているのでしょうか。

島當 スタートアップへの融資には決まった枠組みを設けず、お客さまの要望やニーズに合わせた対応をしています。スタートアップは急成長を掲げるところも多く、それに合わせたマイルストーンの設定など幅広い商品設計で対応しています。審査についても実績より将来の成長性を把握するのが重要なため、営業店と本部でノウハウの蓄積に努めています。
本業支援ではビジネスマッチングを担当している部門と連携し、また営業店とも協力して展開しています。またスタートアップは外部環境の影響を大きく受けることが特徴です。時には四半期ごとに状況が大きく変わるケースもあり、営業店を本部がサポートしながら環境に応じた支援策に取り組んでいます。

新倉 サステナブル経営支援では企業のESG(環境・社会・企業統治)への対応がどのくらい進んでいるかを調べるESG診断を提供しています。お客さまが質問に答えると課題や強みが可視化されることが特徴で、こうした診断を通じてお客さまとの対話を重視しながら課題解決をお手伝いしています。さらに、従業員の声を聞いて企業の「幸せ指数」を可視化する幸せデザインサーベイも行っています。
また、環境、社会、経済へ企業が及ぼすインパクトについて目標を共有し、伴走してサポートしていく融資「ポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)」に力を入れています。グリーンやソーシャルといった課題だけでなく包括的な影響を重視したもので、取り組みをさらに広げるために地域金融機関とも連携を始めました。

水嶋 事業再生分野では、本業支援と金融支援を両輪とした取り組みを進めています。
本業支援ではコロナ禍の影響が大きい飲食・宿泊・ヘルスケアといった業種のお客さまに対して、損益を回復するための取り組みについて議論する勉強会や、管理会計を活用した収支構造の分析・改善提案などを、特定業種に高い知見のある職員や公認会計士資格をもつ職員が行っています。
金融支援では、バランスシートの抜本的な改革を行う「外科的」な事業再構築支援を「BX(ビジネストランスフォーメーション)支援」と定義して取り組んでいます。
商工中金が有する事業再生支援のノウハウや全国のネットワークを生かし、サポートが難しい企業の再生案件にも取り組んでいます。現場の職員の熱意はとても高く、経験も豊富で様々な難案件の対応能力がある点も強みです。

サポート事例
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企業とともに変化を乗り越え頑張る経営者が報われるように

――今後も中小企業を巡る環境は激変が続きそうです。
これからどのような想いで仕事に取り組んでいくのでしょうか。

島當 日本のスタートアップの資金調達額は米国と比べるとまだ少ない状況です。少しでもこれを増やすべく、私たちは、ベンチャーキャピタルとの連携のほか、新株予約権を活用した仕組みもはじめました。将来の日本経済を支えるスタートアップを育成することが私の目標です。
スタートアップは成長ステージによって課題が異なります。そうした課題解決をサポートし、お客さまが大きく成長すれば、私たち担当者にとってとてもうれしいことですね。

新倉 サステナビリティの分野で先進的な金融機関を目指したいです。中小企業にとってこの分野では情報の少なさが課題ですが、そこを橋渡しするのが金融機関の責任だと思います。またサステナブル経営に取り組むのは地域のリーダーとなるような企業が多いと感じており、そのような企業を中心に地域への波及をお手伝いしたいと思います。
商工中金は1936年の設立以来、中小企業とともに成長してきました。足元の変化もともに乗り越え、企業価値を向上させるきっかけにしたいですね。中小企業の技術を生かして世界のグリーントランスフォーメーションに貢献できれば、日本経済全体も成長するのではないでしょうか。

水嶋 これからは間違いなくコロナ禍で急増した借入金返済という課題を抱える企業が増加していくと思います。
特に事業承継のタイミングにある企業にとっては、後継者が多額の金融債務の返済見通しに不安を感じて事業継続に支障が生じかねません。
ですが、企業と金融機関双方が現状を冷静に分析し、早めに打ち手を考えることで、乗り越えるハードルは変わっていきます。
本業支援や金融支援を通じ、商工中金のリソースを最大限生かしながら、1社でも多くの価値ある事業を残すために再生支援の仕事に取り組みたいと考えています。

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