新井 宏昌 氏
「SDGs(持続可能な開発目標)やCSR(企業の社会的責任)といった言葉のなかった頃から、先代はそれが企業にとって大切だと唱えてきました」。三進金属工業の新井宏昌社長はそう話す。地元貢献や工場の緑化の必要性をずっと強調してきた先代社長(現会長)の新井正準氏は、例えば工場にいくつもの植栽を整えて職場環境を改善してきた。新井社長が後を継いでからも同社の取り組みは変わらず、2014年には同社福島工場(福島県平田村)が緑化推進運動功労者として表彰されたほどだ。
新井 宏昌 氏
同社が取り組む事業の中にも、社会の持続可能性を高める狙いを含むものがある。一例が植物工場。売上高の8割弱を占めて同社の主力となっているのは物流倉庫の電動移動ラックといった物流保管機器だが、残る2割ほどの事業の中に植物工場プラントや大学などで使用される研究設備が含まれる。その中で最近取り組んでいるのが薬用植物の水耕栽培。「他の農業と同じく、漢方薬などに使用される薬用植物の栽培でも農家の高齢化が進んでいます。これを植物工場で生産できるようになれば、農業の持続可能性にも貢献できるのではないでしょうか」(新井社長)と考えたのが、この事業を始めた理由だ。販売先の植物工場運営会社では障がい者雇用に積極的に取り組んでいる企業も多く、そうした企業を通じた効果もあるという。
先進的にサステナブル経営に取り組んできた三進金属工業だが、最近は大手の取引先から製品の二酸化炭素(CO2)排出量がどのくらいかとの問い合わせが増えてきた。「量を聞いてくるということは、来年にはどこまで減らせるかが問われるようになるかもしれません」。そう思った新井社長がさらに次の手を考えていたところに、商工中金から提案を受けたのが、環境・社会・経済に与えるインパクトを評価し、資金供給と同時に持続可能性に関する目標を共有しサポートを行うことで企業の価値や働き手の幸せを向上させる伴走支援型融資PIFだ。説明を受けた新井社長は「こうした融資に挑戦するのは我が社にとってもPRになるのでは」と考え、融資を受けることを決めたという。
PIFに際して設定したインパクトを与える目標の中には、従業員が幸せになれる職場作りや、これまでも取り組んできた緑化推進などに加え、材料の電炉鋼板への切り替えによるCO2排出量削減や、廃棄物となる塗料を削減するためメッキ材の使用量を増やすといったものも含まれている。高炉材に比べCO2の排出量を4分の1に抑制できると言われる電炉材へのシフトは、社会全体として温暖化ガス抑制が求められる中で必要な対策だ。また廃棄物削減についても新井社長は「欧州でもラックをメッキ材で作り始める動きが出ており、日本でもそうした社会的要請が強まるのではないかと思います」とその意義を強調する。
インパクト目標の設定にあたっては、商工中金堺支店だけでなく、PIFの評価書作成に当たった商工中金グループである商工中金経済研究所の担当者からも大いに協力してもらったと新井社長は話す。ラックを使って空間を活用する事業から始め、持続可能性を探る様々な取り組みを続けてきた三進金属工業。今後も未来に向けた事業運営を続けていくために、「商工中金にはメインバンクとしてずっと支えてほしい」(新井社長)と考えている。
【写真2】打ち合わせを行う新井社長と窪田氏
【写真3】敷地内では緑化を推進。桜などの植栽のほか滝や池、果樹園もある。