商工中金は中期経営計画の強化分野として「S・E・T」を掲げた。
それぞれS=スタートアップ支援、E=サステナブル経営支援、T=事業再生支援となっている。
新型コロナウイルス禍を機に社会は大きな変化の時を迎えた。新たな技術や価値観の創出を求められる現代において産業の基盤であり、
未来の礎である中小企業をサポートする商工中金の取り組みを紹介する。

背景画像

企業の持続可能性をともに高める 商工中金のPIF(ポジティブ・インパクト・ファイナンス)

持続可能な世界を作るうえで企業の果たす役割への期待が高まっており、企業側でもその対応が進んでいる。物流保管設備機器の製造販売を手掛ける三進金属工業(大阪府忠岡町)は、これまでも工場緑化をはじめ環境や地域貢献に取り組んできた。そんな同社のサステナブル経営を支えるべくメインバンクの商工中金が提案したのが、ポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)。2023年1月に1億円のPIFを受けた三進金属工業は、温暖化ガス排出抑制などいくつかのインパクト目標を掲げ、さらなる持続可能性向上に挑戦している。

サステナブルな経営を実現

緑化や植物工場プラントで地域貢献

新井 宏昌 氏
三進金属工業 代表取締役社長
新井 宏昌

「SDGs(持続可能な開発目標)やCSR(企業の社会的責任)といった言葉のなかった頃から、先代はそれが企業にとって大切だと唱えてきました」。三進金属工業の新井宏昌社長はそう話す。地元貢献や工場の緑化の必要性をずっと強調してきた先代社長(現会長)の新井正準氏は、例えば工場にいくつもの植栽を整えて職場環境を改善してきた。新井社長が後を継いでからも同社の取り組みは変わらず、2014年には同社福島工場(福島県平田村)が緑化推進運動功労者として表彰されたほどだ。

新井 宏昌 氏
三進金属工業 代表取締役社長
新井 宏昌

同社が取り組む事業の中にも、社会の持続可能性を高める狙いを含むものがある。一例が植物工場。売上高の8割弱を占めて同社の主力となっているのは物流倉庫の電動移動ラックといった物流保管機器だが、残る2割ほどの事業の中に植物工場プラントや大学などで使用される研究設備が含まれる。その中で最近取り組んでいるのが薬用植物の水耕栽培。「他の農業と同じく、漢方薬などに使用される薬用植物の栽培でも農家の高齢化が進んでいます。これを植物工場で生産できるようになれば、農業の持続可能性にも貢献できるのではないでしょうか」(新井社長)と考えたのが、この事業を始めた理由だ。販売先の植物工場運営会社では障がい者雇用に積極的に取り組んでいる企業も多く、そうした企業を通じた効果もあるという。

温暖化ガスや廃棄物削減に取り組む

先進的にサステナブル経営に取り組んできた三進金属工業だが、最近は大手の取引先から製品の二酸化炭素(CO2)排出量がどのくらいかとの問い合わせが増えてきた。「量を聞いてくるということは、来年にはどこまで減らせるかが問われるようになるかもしれません」。そう思った新井社長がさらに次の手を考えていたところに、商工中金から提案を受けたのが、環境・社会・経済に与えるインパクトを評価し、資金供給と同時に持続可能性に関する目標を共有しサポートを行うことで企業の価値や働き手の幸せを向上させる伴走支援型融資PIFだ。説明を受けた新井社長は「こうした融資に挑戦するのは我が社にとってもPRになるのでは」と考え、融資を受けることを決めたという。

PIFに際して設定したインパクトを与える目標の中には、従業員が幸せになれる職場作りや、これまでも取り組んできた緑化推進などに加え、材料の電炉鋼板への切り替えによるCO2排出量削減や、廃棄物となる塗料を削減するためメッキ材の使用量を増やすといったものも含まれている。高炉材に比べCO2の排出量を4分の1に抑制できると言われる電炉材へのシフトは、社会全体として温暖化ガス抑制が求められる中で必要な対策だ。また廃棄物削減についても新井社長は「欧州でもラックをメッキ材で作り始める動きが出ており、日本でもそうした社会的要請が強まるのではないかと思います」とその意義を強調する。

インパクト目標の設定にあたっては、商工中金堺支店だけでなく、PIFの評価書作成に当たった商工中金グループである商工中金経済研究所の担当者からも大いに協力してもらったと新井社長は話す。ラックを使って空間を活用する事業から始め、持続可能性を探る様々な取り組みを続けてきた三進金属工業。今後も未来に向けた事業運営を続けていくために、「商工中金にはメインバンクとしてずっと支えてほしい」(新井社長)と考えている。

写真1,2,3
【写真1】ラックの塗装工程には環境に配慮した無排水システムを導入
【写真2】打ち合わせを行う新井社長と窪田氏
【写真3】敷地内では緑化を推進。桜などの植栽のほか滝や池、果樹園もある。
写真1
【写真1】ラックの塗装工程には環境に配慮した無排水システムを導入
写真2
【写真2】打ち合わせを行う新井社長と窪田氏
写真3
【写真3】敷地内では緑化を推進。桜などの植栽のほか滝や池、果樹園もある。

企業と商工中金の二人三脚

「会社の幸せ」数値化の実績

窪田 瀬奈 氏
商工組合中央金庫
堺支店 営業第一課 調査役
窪田 瀬奈

「PIFの取り扱いを商工中金が始めた時点で、まずは三進金属工業に紹介しなければならないと思いました」。商工中金堺支店営業第一課の窪田瀬奈調査役は、PIFの提案をした理由についてそう話す。窪田氏が同社の担当になったのは2022年4月からだが、それ以前に三進金属工業は商工中金と連携し、「ESG診断」と「幸せデザインサーベイ」を実施していた。前者はESG(環境・社会・企業統治)の取り組みについて他社と比較できる診断であり、後者は従業員へのアンケートを通じ「会社の幸せ」を数値化する調査だ。三進金属工業がサステナブル経営に高い関心を抱き、その実現に向けてこうした診断やサーベイに取り組んできたことは窪田氏も知っており、PIFは企業と協力して進める必要があるだけに、同社には必ず提案しようと考えた。

窪田 瀬奈 氏
商工組合中央金庫
堺支店 営業第一課 調査役
窪田 瀬奈

提案にあたってまず調べたのは同社のホームページ。企業へのソリューション提供を行う際に必要な仮説を作るうえで、情報の充実している三進金属工業のサイトは大いに参考になったという。加えて窪田氏は元々同社の本社工場と福島工場を見学しており、緑化を含めたこれまでの取り組みも把握していた。「まだBCP(事業継続計画)という言葉のなかった時代から東西に工場を配置して供給責任を果たせるようにするなど、時代を先取りする企業です」と考えていた窪田氏は、同社ならPIFに必要な第三者の評価も得られると判断。融資を提案したという。

経営者と商工中金が一対一で議論

実際に進めるに際しては評価書を作成する商工中金経済研究所だけでなく、商工中金内でPIFをとりまとめている部署の力も借り、グループ全体でサポートした。だが何よりその過程で大きな意味があったと感じたのは、インパクトの目標設定に向けて新井社長と一対一でディスカッションできた点。これからどうしていきたいかについて経営者自らの言葉を聞き、具体的な目標を設定できた点は、商工中金が取引先と協力し、二人三脚でサステナブル経営を進めていくうえでとても役立った。

インパクト目標を定めるPIFで重要なのは、その目標がこれからどう実現されていくか。商工中金はその課題を共有し解決のサポートを担当することになり、金融だけでなくESGやCSRといった分野でも踏み込んだアドバイスが求められるようになる。「わくわくしながらも緊張感を持って臨み、できている項目はさらに上を目指すように、これからの項目については伴走してサポートをしていきたいですね」と窪田氏は話す。さらにPIFにとどまらず、財務構造の再編や、まだ土地に余裕のある福島工場の一段の活用法など、商工中金がサポートできる分野はたくさんあるという。サステナブル経営を広め、社会全体の持続可能性を高めるうえで、商工中金の果たす役割はまだまだ増えそうだ。

写真4
併設の緑正館は社員食堂のほか地域コミュニティーの場として研修、講演、コンサートなどにも利用されている。内装は福島産木材を使用。
写真5
「ESG診断」と「幸せデザインサーベイ」のレポート。可視化することで具体的な取り組み目標も見えてくる。

商工中金のサポート事例など 詳しくはこちら

商工中金