輝く地域の中小企業

自動車シート製造技術を起点に
“座る”を極める新分野へ

丸菱工業株式会社

“座る”を変えて健康で豊かな生活を

創設以来の自動車シート製造を主力としつつ新規事業を模索

同社の強みは、500種以上の部品を正確に管理し、組立が出来るシステムと人材・ノウハウを蓄積し、プレス、溶接、組立、出荷まで一貫生産ができる点にある

自動車製造は裾野の広い産業で、自動車メーカーの周辺にさまざまなパーツの数多くのメーカーが存在する。かつてのように「系列」で守られる時代ではなくなり、電気自動車(EV)などの登場でパーツそのものが変わるなか、部品製造を主軸としつつ新事業を模索する企業も多い。
自動車産業の集積地である東海地区で、自動車シート製造を手がける丸菱工業株式会社(愛知県小牧市、河村嘉希社長)。1964(昭和39)年、東京五輪の年に、現社長の祖父・憲三氏が三菱のスクーターのサドル製造で創設して以来、三菱の主力車種のシートを製造してきた。現在はパジェロ、デリカ、ローザのシートを一手に引き受ける。
「内装のばらつきをなくすため車種ごとの一拠点発注をしてもらえるが、わずかな齟齬でも世界リコールとなるリスクも高い」(河村社長)

シート造りのノウハウを生かそうと福祉用具の開発へ

樹脂、ゴム、ウレタンからカバー(織布と皮革)まで、シートは多種多様な材料を複合的に扱うのが特徴。

シートは多様なパーツの集積でできている。フレームの金属、樹脂、ゴム、クッションのウレタン、カバーの織布や皮革など、素材も多岐にわたる。金属のプレス、溶接、板金にはじまり、製造工程も煩雑だ。仕様は500種類、うち100種類ほどを常時製造・出荷している。

日本製にこだわり、飛騨高山の木材を使用し木工メーカーで加工された木組みに生地やウレタン、カバーを張り付ける。木組みも開発期間中に数多くの試作・改良が積み重ねられた

「シート製造は“面倒くさい”ものだ。ウチには正確に管理し、組立が出来るシステムノウハウの蓄積があり、煩雑な製造工程をきっちりこなせる人材も揃っている。簡単にはマネできないし、この業界への新規参入も最近はない」(河村社長)
同社が新規分野の開拓を考えたきっかけは、2008年のリーマンショック。自動車を含む製造業が大きな打撃を受けるなか、10年に企画部を発足させた。自社のノウハウを生かし、巨額な設備投資も必要のないところで、介護福祉分野で「座る」を極める商品開発に取り組んだ。

“座る”を科学し“最幸”の座り心地を追求

お客様の“最幸”のため「座る」を極める

「仙骨サポート座布団」。福祉用具事業で市場に投入した最初の製品(同社提供)

最初に製品化したのは「仙骨サポート座布団」。座り心地がよく、座るだけで姿勢が良くなる座布団だ。一連のクッション製品の開発に当たっては、シート開発で培った人間工学を応用して座り心地を追求した。

「スポッとチェア」の完成品。座面の高さはもちろん、「食事」「通常」「リラックス」という3つの場面に合わせ、座面が3段階にスライドして背もたれに角度をつけることができる。また、ひじかけの部分にも緩やかな段差をつけるなど座り心地を追求する工夫がこらされている

多様な素材の知見なども含め、健康維持に役立つ製品開発の「健康工学」を生み出した。また、高齢者用の椅子「スポッとチェア」の開発の際には、ニーズを把握するため100件の高齢者用施設での聞き取りも行った。
こうして開発された「スポッとチェア」は2014年の国際福祉機器展(H.C.R.)に試作品を出展。高い評価を得て、さらなる改良を経て市場に投入され、地道に販路も広がる。
「今後は自動車市場の縮小も予想され、シート製造という“幹”がやせ細る可能性が高い。そのとき、幹を支える“柱”として期待している。今後は『座る』を極めることで、鉄道車両業界や航空機業界などにも挑戦したい」と、河村社長の夢は広がる。

企業データ

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